望美が何かを話しているところに走りよっていくと・・・。
視界の端に映る子供。
それを見た瞬間に、私の体は何かの流れによって流され
ていた。
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気が付いたら森の中だったあの日から、随分とめまぐる
しい日々だった。
一緒に流されたはずの3人は一緒には居らず、私は1人ヒ
ノエという人に保護されている。
怖いことも無く、直ぐに保護してもらえ、不信な私を直
ぐ受け入れてくれた此処で、何が一番大変かと言うと・・・・・・。
「どう思う? この着物もあれも全部似合っていると思
わないか?」
朝一番で部屋に入ってきたと思えば、沢山の着物と装飾
品を次々に広げていくヒノエ。
「えっと・・・こんな悪いよ、今でも十分に色々と良くし
てもらってるって言うのに」
「、遠慮する事無いんだぜ? ゆくゆくは・・・」
ガラッ
何か言おうとしていたヒノエの言葉をの続きは、部屋へ
の突然の訪問者によって遮られた。
「おや、は今日も可愛らしいですね?」
「えっと・・・・・・」
何と!この人は武蔵坊弁慶さん。
あの弁慶さんらしい。
想像していた人とはまったく違う、とってもジェントル
マンなお人だっけど。
此処は日本の昔のようで何か少しずれているらしい。
「ヒノエ、あなたも居たのでですね」
にっこりと優雅な仕草で微笑む弁慶さん。
きっとこんな状況じゃなかったら見ほれていたに違いな
い。
「弁慶こそ! んな朝早くから何の用だ?」
「ちょっとお土産を持ってきたのですよ」
バチバチと音がしそうなほどにらみ合う2人に、私は
思わず数歩後へと下がってしまう。
そう、この2人の言い合いが一番の悩みの種だった。
何しろ、私を引き合いに出すため、答えに窮する事も
ある程だった。
「ヒノエ、さんが困っていますよ?」
「なっ・・・!! 弁慶お前だって」
こうなった2人は暫くこのままだ。
私は、開けられた障子から見える外を眺め、苦笑する
しか無いのだった。
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それから数十分
ヒノエが父である熊野別当に呼ばれ、名残惜しそうに部
屋を出て行くと、入れ替わるように弁慶が私の隣りに腰
を降ろした。
「お見苦しい所を見せてしまいましたね」
なれた仕草で自身の髪をかきあげた弁慶さんから、ふん
わりと良い香りがはこばれて来る。
それだけでも顔が赤くなってしまうと言うのに、微笑む
姿まで目にしてしまったらひとたまりも無い。
「そうでした、今日はお土産を持ってきたのですよ」
弁慶さんは、小さな包みを懐から取り出すと、私の前
へと差し出した。
「あのっ・・・ありがとうございます」
開けても良いですか?と尋ねれば、もちろんですと頷か
れ、早速包みを開いていく。
すると・・・・・・。
中からは、可愛らしいピンクの珊瑚で出来た髪留めと、
小さなお饅頭の入った包みが出て来た。
「うわぁ、凄く可愛いです」
にこりと満面の笑みで見上げれば、その倍以上の笑みで
かえされる。
「似合うと思ったらつい買ってしまいました」
「ありがとうございます弁慶さん。あの・・・せっかくで
すし、お時間有ったら一緒にお饅頭食べてくれませんか?」
もらった私が言うのも可笑しいですが、と言っていそい
そとお饅頭を包みから取り出せば。
弁慶さんは是非にと言って、近くに在った急須セットで
お茶を入れてくれる。
早速一口食べれば、口いっぱいに甘さが広がっていく。
餡子がとっても美味しい。
「美味しいですね、弁慶さん」
「ええ、美味しいです」
そんな和やかに雰囲気でお茶を楽しんでいると・・・。
後から急に抱きすくめられる。
ヒノエだ。
後を見なくても赤い癖のある髪が目の端に入ってきてい
る。
「2人でお茶をしているなんて、つれないお嬢さんだ」
耳!!!
耳元でささやかれて、顔が一気に赤くなる。
「ヒノエ・・・・・・」
今度は弁慶さんの声が隣から聞こえてくる。
ああ、このパターンは・・・のんびりお茶は此処で終了
らしい。
「2人とも!! せっかくですから、お茶一緒に飲みま
しょう!」
無理やりにヒノエを隣へと座らせ、反対に座った弁慶
さんへと目を向ける。
「そうですね、たまにはヒノエともお茶するのも良いで
しょう」
「姫君のたのみなら」
なんとか2人を納得させ、のんびりとは言えないけれど、
和やかにお茶を楽しむ事が出来そうだ。
ほぅっと息をつくと、お茶を口に含み、やっと肩の力を
抜いたのだった。
それから暫くすると、弁慶さんはまた来ますねと言い置
いて、部屋から去っていき・・・。
それから数ヵ月後・・・・・・。
望美達を連れてやって来た時には、目が飛び出す程驚い
てしまう事になるのだけれど、それはまた別のお話で
ある。
