「ふん!スリザリン寮の奴なんて知らねーよ」

ただの照れ隠しだったかもしれないその言葉。

「私だって、あんな奴・・・知らないわ」



売り言葉に買い言葉。
その日から私達は変わったに違いない。





月の夜のいたずらにご用心。





その日は最悪なはじまり。
今日自分の誕生日だって言うのに。
何時も通りと言えば、確かにそうかもしれないけれど。



はセブルスと今日最初の授業へと向かう途中だった。
組み分けでスリザリンに組み分けされてからもう4年も
たった。もともと幼馴染のシリウスとセブルスが仲が悪
く、間のは2人の仲の悪さに関係なく2人とよく遊
んでいた。


もちろん、シリウスが嫌いなスリザリン寮になっても特
に喧嘩なんてしてなかった。
は寮にこだわりはまったくなかったし、シリウスだ
ってそうだと思っていたのだ。



でも、2年になって、悪戯仕掛け人として人気の出てき
たシリウスとセブルスの衝突は多くなる一方で、ジェー
ムズとルーピン、ピーターでセブルスを囲む様子は
にも目に余る物に変わってきた。
確かに、昔から2人の仲の悪さは知っていたけど、ここ
まで酷くなかった。

やっぱり寮なのだろうか・・・。







それは3年の時だった。






「ちょ!何してるのよ!!」



いつもの様にセブルスに絡むシリウス達に、は慌
てて駆け寄っていった。


「喧嘩はやめて!1人に対して大勢で掛かるなんて卑怯よ
!周りの人にも迷惑でしょ」



いつもより厳しく言ったつもりなんてひとつもなかった。



「いつもいつも、少し引っ込んでてもらえないかな?」

ジェームズだ。
眼鏡を軽く押し上げて、きつい顔でを睨み付けて来た。


!こんな奴かばって!同じスリザリンだからか!?」


何を言ってるのだろう。
一瞬、シリウスの言っている事がには分からなかった。
こんな事言われたのは初めてだった。
ジェームズが突っかかって来る事はよくある事だけど、シリ
ウスにこんな目で見られるなんて思わなかったのだ。



「何いってるの?寮で差別するなんて最低よ・・・」


泣きそうだ。
自分はこんなに弱くなんてない、言い返さなくちゃ。
は目を吊り上げ2人を睨み付けた。



「ふん。所詮やつらはそういう奴なんだ」

復活したセブルスがの横に並んで立った。



「セブルス!あなただってそんな言い方」

「何だよ!いちゃいちゃして!!」


「何だい、シリウスは嫉妬して「うるせージェームズ!」



「ふん!スリザリン寮の奴なんて知らねーよ」




グサッと何かが心に刺さった気がした。




「私だって、あんな奴・・・知らないわ」



あの日からもう直ぐ一年経とうとしている。










隣のセブルスは顔を顰めて前を見据えている。



「ええ。わかってる」




原因は前からやってくる一団。



「今日も仲良く授業か?」


シリウスだ、あの日からは見慣れた睨みつけてくる目。

「そうよ、貴方達こそ仲良く授業?」
ジェームズをちらりと横目に見た。
セブルスとジェームズは隣で今にも火花を散らしそうに
なっている。

「ああ」



何だろう。
今日は、やけに素直な態度のシリウスに去年を思い出す。
今ごろは、誕生日のプレゼントの話でもしていただろう、
思い出すと悲しくなってきた。




バシャ!!


「なっ・・・・・・・」



その時。





頭の上から大量の水と、塗料が降ってきた。



「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・!?」


隣のセブルスも同じに染まって立っている。
セブルスは呆然と、シリウスもを見ている。





「成功だ!」


妙に、ジェームズの言葉が耳に響いた。


「・・・・。きらい・・・だいッ嫌い!」




は大声で叫んだ。

こんな声で叫んだのは子供の時以来だと思うような
大声で叫んだ。


「ちがっ・・・」


シリウスが傷ついた顔で見ていたけど、にはもう
関係なかった。
自分の方が傷ついたのだ、そんな顔される覚えなんて
ひとつも無い。








・・・・・・・・・・・・・・・・・






その夜。
は一人塔の上で半月を眺めていた。
キラキラ光る星も、綺麗だけど・・・には自分
を惨めにするだけの様に思えてならなかった。

どんなに魔法をかけても取れなかった塗料。
諦めて塔の上で一日中過ごしていたのだ。でも星も
出てきた、真っ暗になる前に、部屋へ帰ろう。

が立ち上がったその時・・・・・・・・・・。





パァと体に付いた塗料が光だした。
これ以上惨めになるのだろうか、は泣きたいの
を我慢してその様子を眺めていた。



辺りがほのかな明かりのみになると、自分の体に何
が起こったのかがやっとわかった。



「・・・・っ」



塗料まみれのローブに、大きく「好きだ!」なんて
現れたうえに、今は塔の上は一面真っ白な花畑が広
がっていた。



「・・・・・・」



何の悪戯なのか、








それは去年の誕生日。


シリウスに言ったのだ。
「じゃあ、あっと驚く悪戯!なんてどう?」



「はぁ?誕生日のプレゼントがそれでいいのか?」


呆れたシリウスの顔。


「もちろん。でも、嬉しい悪戯ね?」



「そっか、じゃあ物凄いの考えとく」



悪戯っぽく笑う顔。



そんな約束通りに誕生日の悪戯・・・・。



「・・・っ何で?」


とうとうは泣き出した。

去年からずっと、こんなに泣かなかったと思うぐらい
の大声で。



「みつけた」



シリウスの声が聞こえるなんて、幻聴だろうか?
はそっと顔を上げた。


「・・・・シリウス?」





白い花咲き乱れる塔の上、シリウスが月の光の下で
目の前に立っている。
はぼーっとシリウスを見上げた。

「何で、ここに・・・?」


やっとで出た声は、擦れた声で何だか笑えた。




「あぁ・・・言いたいことがあって来た」

鼻の頭をポリポリ掻いて、歯切れの悪いシリウスに、
は何だか不安になってきた。

何を言うつもりなんだろう。

「何?」



「・・・・」




「・・・・・・・・・・」



お互いに、暫く無言で向かい合い、どれだけ経った
のだろうか。


「・・・・・・・好きだ」




それは小さな声で、風の音にも聞こえるほど。




「えっ?今・・・・」
「・・・好きだ!」



今度こそ聞こえた。


嘘じゃないだろうか、あんな目で見てたのに。それ
で好きだったなんて・・・・。



「うそじゃ・・・・」



「違う!!」

シリウスが噛み付くように叫んだ。

は驚いて一歩後ろに跳び退る。

「ごめん」


どちらかともなくそう言っていた。


「ごめん、驚かせた」


「ううん」



静かに首を左右に振って、下を向いた。
シリウスの顔を正面から見てられない。

「なっ?」


その瞬間、シリウスの手がへと伸びてきた。
気が付けば、はいつの間にかシリウスの腕
に抱の中に納まっていた。
顔から火が出そうだ。


「シリウス?」




「好きだ。好きなんだ、嘘じゃない」



「だって、私の事いつも睨んでた」



嫌われたと思って凄く悲しかった。


「それは・・・。セブルスと仲よさそうなのが
あんまりむかついて・・・」



「えぇ?」


ビックリしてシリウスを見上げた。
それで1年近くも悲しい思いをしていたのだろうか?

「そんな・・・」


でも、それはシリウスもずっと悲しかったのかもしれない。
もしかしたら、以上に傷ついたかも知れない。
大嫌いなんて、好きに人に言われたら・・・。


「・・・・。私も、私だって大好きだよ」



は正直に、自分のできる最高の笑顔でシリウスに笑いか
けた。


「大嫌いなんて嘘だよ」


「・・・・・・・・・っ!」







最低の始まりが最高の始まりになった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・





そのころのセブルスは・・・。






カーテンを開けた途端。


「なっ!何だこれは?」


自室にこもっていたセブルスのローブにはでかでかと
好きの文字。

月の光を浴びて咲き誇る大量の白い花。




「・・・・はぁ」





セブルスは直ぐにピンときた。



「まったく、人騒がせな連中だ・・・・」



苦笑そっと外の月を見上げた。




また明日も同じ一日が始まるけれど、
少し変わっている事を想像しながら・・・。







                       txt_44_top.gif

・---------------------------------------・

キリバン22000

銀狐様へのささげ物です。

初のキリリクはりきって書いたのですが・・・。

恋愛で短編を書くのは初で、何だか長くなりすぎ

てしまった気がしてます。

何より、ちゃんとなっているか心配ですが、気に入ってもら

えれば嬉しいです。

梓榮。